東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)110号 判決 1982年1月21日
東京都渋谷区東一丁目二六番二六号
原告
富士ビルデイング株式会社
右代表者代表取締役
木村倫一郎
右訴訟代理人弁護士
大木市郎治
東京都渋谷区宇田川町一-三
被告
渋谷税務署長
榊成美
右指定代理人
布村重成
右同
新村雄治
右同
小林進
右同
屋敷一男
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた判決
一 原告
1 被告が昭和五三年六月三〇日付けでした次の処分をいずれも取り消す。
(一) 原告の昭和四九年九月一日から昭和五〇年八月三一日までの事業年度の法人税の更正処分
(二) 原告の昭和五〇年九月一日から昭和五一年八月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
(三) 原告の昭和五一年九月一日から昭和五二年八月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち所得金額を九九七万五一五八円として計算した額を超える部分並びに重加算税賦課決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 本件各課税処分等
原告は、不動産管理を営む会社であるが、昭和四九年九月一日から昭和五〇年八月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇年八月期」という。)、昭和五〇年九月一日から昭和五一年八月三一日までの事業年度(以下「昭和五一年八月期」という。)及び昭和五一年九月一日から昭和五二年八月三一日までの事業年度(以下「昭和五二年八月期」という。)の法人税について、次の表(一)ないし(三)のとおり青色申告書によつて確定申告したところ、被告は、昭和五三年六月三〇日付けで同表(一)ないし(三)記載のとおり更正処分(以下、昭和五〇年八月期についての更正処分を「本件更正(一)」といい、昭和五一年八月期についての更正処分を「本件更正(二)」といい、昭和五二年八月期についての更正処分を「本件更正(三)」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、昭和五一年八月期についての過少申告加算税賦課決定処分を「本件賦課決定(一)」といい、昭和五二年八月期についての過少申告加算税賦課決定処分を「本件賦課決定(二)」といい、同事業年度についての重加算賦課決定処分を「本件賦課決定(三)」といい、本件更正(一)ないし(三)と本件賦課決定(一)ないし(三)を合わせて「本件各課税処分」という。)をした。そして、原告は、同表記載のとおり不服申立手続を経由した。
表(一) 昭和五〇年八月期
<省略>
(△は欠損金額。以下同じ。)
表(二) 昭和五一年八月期
<省略>
表(三) 昭和五二年八月期
<省略>
2 違法事由
本件各課税処分は原告の所得金額を過大に認定した違法があるので、本件更正(一)及び(二)並びに本件賦課決定(一)及び(三)は全部の、また本件更正(三)及び本件賦課決定(二)は所得金額を九九七万五一五八円として計算した額を超える部分の、各取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張は争う。
三 被告の主張
1 本件更正(一)(昭和五〇年八月期)
(一) 本件更正(一)は、次の表(四)記載のとおり、申告所得金額に償却費相当額計上もれ(雑収入)を加算したものである。
表(四)
<省略>
(二) 右のうち、償却費相当額計上もれの内容は後記4のとおりである。
2 本件更正(二)(昭和五一年八月期)
(一) 本件更正(二)は、次の表(五)記載のとおり、申告所得金額に償却費相当額計上もれ(雑收入)及び繰越欠損金控除過大額を加算したものである。
表(五)
<省略>
(二) 右のうち、償却費相当額計上もれの内容は後記4のとおりである。
(三) 繰越欠損金の控除過大額
原告は、繰越欠損金として一一八万六二四八円を申告したが、昭和五〇年八月期の欠損金は前記1のとおり一七万三七四八円であるから、右一一八万六二四八円と一七万三七四八円との差額一〇一万二五〇〇円を繰越欠損金の控除過大額として所得金額に加算したものである。
3 本件更正(三)(昭和五二年八月期)
(一) 本件更正(三)は、次の表(六)記載のとおり申告所得金額に償却費相当額計上もれ、保証金返還額過大計上による収益計上もれ及び預り金額の過大計上を雑収入として加算し、事業税の損金算入額を減算したものである。
表(六)
<省略>
(二) 償却費相当額計上もれの内容は後記4のとおりである。
(三) 保証金返還額過大計上による收益計上もれ。
(1) 原告は、訴外コミユニケーシヨン・アンド・スタデイーズ・インターナシヨナル・リミツド日本支社(以下「C・S社」という。)との間で同社に対し東京都渋谷区東一丁目二六番二六号所在の鉄骨鉄筋造一一階建の建物(以下「富士ビル」という。)の一階、七階、一〇階及び一一階の各一部を賃貸する旨の賃貸借契約を締結し、これに係る保証金として同社から合計一二一〇万円を受領していた。
(2) 原告は、右賃貸借契約の終了に伴い、昭和五二年二月一四日右保証金のうち四二〇万〇五七〇円をC・S社に対し返還した。しかるに、原告は、これを六七一万七三八七円返還したと仮装経理し、その差額二五一万六八一七円を収益から除外していたので、右差額を雑収入として所得金額に加算したものである。
(四) 事業税の損金算入額
これは、本件更正(二)に係る原告の事業税の額二一万〇五四〇円を昭和五二年八月期の原告の所得金額から減算したものである。
4 償却費相当額計上もれ
(一) 原告は、次の表(七)の契約日欄記載の日に、賃借人欄記載の相手方との間で、富士ビルのうち物件欄記載の貸室についてそれぞれ賃貸借契約(以下表(七)の番号1ないし6の契約を合わせて「本件賃貸借契約」という。)を締結し、各契約日に賃借人から保証金欄記載の保証金(以下「本件保証金」という。)を受領するとともに、本件保証金のうち償却費相当額欄記載の金額(以下「本件償却費相当額」という。)は償却費名目で原告が取得し、契約終了時には保証金から右金額を控除した残額を賃借人に返還する旨を約した。
表(七)
<省略>
(二) ところで、一般にビル貸室の賃貸借に当たり賃借人が賃貸人に対して保証金として金員を差し入れ、その中の一定金額ないしは一定割合を貸室の償却費に当てるとの名目で賃貸人が取得するところの償却費相当額は、実質的には権利金の性質を有するものであつて右差し入れられた時から賃貸人においてこれを自由に利用処分することができるものであるから、保証金のうち返還を要しない償却費相当額部分は、保証金収受の時点の属する事業年度の益金に計上すべきである。したがつて、表(七)の番号1の償却費相当額一〇一万二五〇〇円は昭和五〇年八月期の、同2及び3の償却費相当額合計一三〇万円は昭和五一年八月期の、同4ないし6の償却費相当額合計八四万二〇〇〇円は昭和五二年八月期の、それぞれ雑収入となる。
5 本件賦課決定(一)(昭和五一年八月期)
本件賦課決定(一)は、本件更正(二)に伴い、国税通則法六五条一項の規定に基づき、右更正により新たに納付すべき法人税額六五万七二〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて得た金額三万二八〇〇円(国税通則法一一八条三項及び一一九条四項の規定に基づき、本税につき一〇〇〇円未満の端数及び附帯税につき一〇〇円未満の端数を切捨てて計算する。)に相当する過少申告加算税を賦課決定したものである。
6 本件賦課決定(二)(三)(昭和五二年八月期)
本件賦課決定(二)及び(三)は、本件更正(三)により新たに納付すべき法人税額一二九万九二〇〇円を次の表(八)記載のとおり各加算税の計算の基礎となる税額に区分し、国税通則法六五条一項及び六八条一項の規定に基づき各加算税を賦課決定したものである。
表(八)
<省略>
(注) 端数計算は前記(一)の括弧書の適用による。
すなわち、原告は、前記3(三)のとおりC・S社に四二万〇五七〇円を返還したにもかかわらず、C・S社からの返還要求額がこれより多額であつたこと及び保証金の返還が現金で決済されていたことなどを利用して、同社に返還した金額の水増経理を行い、所得金額の計算の基礎となる事実を仮装隠ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づいて収益を二五一万六八一七円過少に計上して申告したものであるから、右金額は重加算税の計算の基礎となる税額に係る所得である。そして、本件更正(三)により新たに納付すべき法人税額から右重加算税の計算の基礎となつた部分を控除した税額が過少申告加算税の計算の基礎となるものである。
7 結論
よつて、本件各課税処分はいずれも適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 本件各課税処分の内容が被告主張のとおりのものであることは認める。
2 被告の主張1(一)の表(四)のうち番号1(申告所得金額)は認め、番号2(償却費相当額計上もれ)は否認する。
昭和五〇年八月期の原告の所得金額は、原告の確定申告のとおり一一八万六二四八円の欠損である。
3(一) 被告の主張2(一)の表(五)のうち番号1(申告所得金額)は認め、番号2(償却費相当額計上もれ)及び3(繰越欠損金の控除過大額)は否認する。
昭和五一年八月期の原告の所得金額は、原告の確定申告のとおり四七六万六五四四円である。
(二) 同(三)のうち、原告が繰越欠損金として一一八万六二四八円を申告した事実は認めるが、主張は争う。
4(一) 被告の主張3(一)の表(六)のうち番号1(申告所得金額)及び4(預り金額の過大計上)は認めるが、番号2(償却費相当額計上もれ)、3(保証金返還額過大計上による収益計上もれ)及び5(事業税の損金算入額)は否認する。
昭和五二年八月期の原告の所得金額は、申告所得金額九八七万五一五八円に預り金額の過大計上一〇万円を加算した九九七万五一五八円である。
(二) 同(三)(1)の事実は認める。
同(三)(2)のうち、原告が賃貸借契約の終了に伴い昭和五二年二月一四日C・S社に保証金を返還した事実及び原告が右返還額を六七一万七三八七円として経理処理した事実は認めるが、原告が四二〇万〇五七〇円しか返還していないという事実は否認する。返還額は六七一万七三八七円である。
(三) 同(四)は争う。
5(一) 被告の主張4(一)のうち「本件保証金のうち償却費相当額欄記載の金額は償却費名目で原告が取得し、契約終了時には保証金から右金額を控除した残額を賃借人に返還する旨を約した。」との事実は否認し、その余の事実は認める。
(二) 同(二)は争う。
原告は、賃借人との間において、賃借人の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべき事由により本件賃貸借契約が終了した場合は、保証金の中から本件償却費相当額を原告が償却費として取得する旨を約した。しかし、原告の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべからざる事由により本件賃貸借契約が終了した場合には、原告が本件償却費相当額を取得することはできないのである。すなわち、本件賃貸借契約においては、賃借人は、本件償却費相当額について原告の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべからざる事由によつて本件賃貸借契約が終了することを停止条件とする返還請求権を有しているのである。しかるところ、保証金の授受がなされた時点では、本件賃貸借契約が将来いかなる事由によつて終了するかを予測することはできないのであるから、本件償却費相当額の返還の要否も確定できない。そうすると、保証金収受の時点においては、まだ本件償却費相当額を原告の収益に計上することはできないというべきである。
6 被告の主張5は争う。
本件更正(二)は違法であるから、それに基づいてなされた本件賦課決定(一)も違法である。
7 被告の主張6は争う。
本件更正(三)は、原告の確定申告の所得金額に一〇万円を加算して計算した限度において適法であるから、その限度で本件賦課決定(二)も適法であるが、本件更正(三)のうち原告の所得金額を九九七万五一五八円として計算した額を超える部分は違法であるから、右部分に基づいて計算された本件賦課決定(二)のその部分及び本件賦課決定(三)は、いずれも違法である。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第一〇号証、第一一号証の一及び二、並びに第一二ないし第一八号証
2 証人野本明の証言及び原告代表者木島高昭尋問の結果
3 乙第一号証の一及び二、第二号証並びに第三号証の一及び二の原本の存在及び成立は認める。その余の乙号各証の成立(第四ないし第六号証については原本の存在及び成立)は不知。
二 被告
1 乙第一号証の一及び二、第二号証、第三号証の一及び二、第四ないし第七号証並びに第八号証の一及び二
2 証人野本明の証言
3 甲第一七及び第一八号証の原本の存在及び成立は不知。その余の甲号各証の成立(第一ないし第三号証、第七号証及び第一二ないし第一六号証については原本の存在及び成立)はいずれも認める。
理由
一 請求原因1(本件各課税処分等)の事実、本件各課税処分の内容が被告主張のとおりのものである事実、並びに表(四)の番号1(申告所得金額)、表(五)の番号1(申告所得金額)、表(六)の番号1(申告所得金額)及び4(預り金額の過大計上)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、本件各事業年度を通じての争点である表(四)ないし(六)の各番号2(償却費相当額計上もれ)の加算の適否について検討する。
1 原告が表(七)の契約日欄記載の日に、賃借人との間で富士ビル内の貸室につき本件賃貸借契約を締結し、本件保証金を受領した事実は、当事者間に争いがない。
2 原本の存在及び成立に争いのない甲第一二ないし第一六号証並びに乙第一号証の一及び二、並びに原告代表者木島高昭尋問の結果によると次の事実が認められる。
(一) 本件賃貸借契約のうち、原告と興栄商事株式会社との契約書には、保証金の項で、「興栄商事株式会社の解約の時はいかなる事情であろうとも『償却費として一割』、『八〇万円』『二八万六〇〇〇円』又は『三六万四〇〇〇円』を原告に支払う」と記載されている。
(二) 同じく、原告と小林哲夫との契約書には、保証金の項で、「小林哲夫は物件明渡しに当つて償却費として金五〇万円也を原告に支払うものとする」と記載されている。
(三) 同じく、原告と株式会社日映企画との契約書には、特約事項の項で、「賃貸人は賃借人に対し契約解除時点において償却費として、金一九万二〇〇〇円を保証金の内より差し引き残金を返還する」と記載されている。
(四) 以上の各契約書には、本件賃貸借契約が原告の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべからざる事由により終了した場合の保証金の返還について特に定めた条項はない。
(五) 原告は、本件賃貸借契約の締結に際し、賃借人から本件保証金のほかは権利金、礼金等の一時金の支払いを受けていない。
(六) 興栄商事株式会社では、本件保証金の一割は権利金として原告に支払つたものとして経理処理していた。
(七) 原告が、富士ビルの賃貸借契約につき、原告の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべからざる事由により終了したとして、償却費を控除することなく保証金を賃借人に返還したという事例は現在まで存しない。
3 以上の事実を総合すれば、本件保証金のうち一割(小林哲夫の場合は五〇万円)に当たる本件償却費相当額は、少なくとも原告において本件賃貸借契約上の債務を履行するかぎりは、同契約が期間満了するかあるいは期間内に終了するかを問わず、また、その存続期間の長短を問わず、原告において取得し得るものであり、名目は償却費であつても実質は権利金としての性格を有するものであるから、同契約が締結され、本件保証金が授受され、賃貸物件の引渡し(弁論の全趣旨により同契約締結日ころに行われたものと認められる。)が行われた時点においては、原告は、本件償却費相当額の金員を有効に取得し、これを自己の所有として自由に利用処分することができたものと認むべく、本件償却費相当額は、右時点の属する事業年度の益金に計上すべきものと解するのが相当である。
原告は、本件償却費相当額は本件賃貸借契約が原告の解約申入れ又は賃借人の責に帰すべからざる事由により終了した場合においてこれを賃借人に返還すべきものであるから、本件保証金収受の時点では本件償却費相当額の返還の要否を確定できず、これを益金に計上することはできないと主張する。前記のとおり、本件賃貸借契約において右のような場合の返還義務が明定されているわけではないが、本件賃貸借契約が賃借人の責に帰すべからざる事由により終了し、両当事者の協議又は裁判で、本件償却費相当額を賃借人に返還しなければならないという事態が全く発生しないとはいえず、その限りにおいては、本件賃貸借契約が終了するまでは、原告が本件償却費相当額を返還しなくてよいことが最終的に確定したということはできないであろう。しかし、契約の終了時まで原告が本件償却費相当額の金員を自由に利用処分できなかつたものと認めることはできず、前記認定のとおり、本件賃貸借契約の締結、本件保証金の授受及び賃貸物件の引渡しにより、原告は右金員を自己の所有としていつたん有効に取得し、その時点で既に所得が実現されたものと認むべきであり、後に賃借人の責に帰すべからざる事由により本件賃貸借契約が終了し、本件償却費相当額の返還義務が発生したとしても、それは右のような新たな事由の発生によつて生ずるものであつて、更正の請求あるいは返還義務発生事業年度の損金計上により処理すべきものというべきである。(最高裁判所昭和五六年一〇月八日第一小法廷判決参照)。
4 そうとすれば、表(四)ないし(六)の各番号2(償却費相当額計上もれ)を申告所得金額に加算することは、いずれも適法というべきである。
三 次に、表(六)の番号3(保証金返還額過大計上による収益計上もれ)について検討する。
被告の主張3(三)のとおり、原告はC・S社との間で同社に対し富士ビルの一部を賃貸する旨の賃貸借契約を締結し、これに係る保証金として同社から合計一二一〇万円を受領し、同賃貸借契約の終了に伴い昭和五二年二月一四日同社に対し右保証金の一部を返還した事実及び原告は右返還額を六七一万七三八七円として会計処理した事実は、当事者間に争いがない。
そして、右返還額につき、被告は四二〇万〇五七〇円であると主張するのに対し、原告は六七一万七三八七円と主張するところ、原本の存在及び成立について争いのない乙第二号証並びに同第三号証の一及び二、証人野本明の証言により原本の存在及び成立を認める同第五号証及び同第六号証並びに成立を認める同第八号証、弁論の全趣旨により成立を認める同第七号証、証人野本明の証言、並びに原告代表者木島高昭尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。
1 原告とC・S社との右賃貸借契約は昭和五一年四月に終了し、C・S社は原告に対し保証金の返還を請求していたが、原告は資金難等を理由に返還を遅滞していた。そこで、C・S社は、昭和五二年一月に入り、顧問弁護士野本明に対し右保証金の返還請求を依頼した。
2 野本明は、原告に対し、昭和五二年一月二四日付け通知書(内容証明郵便)により、右保証金のうち六七一万七三八七円の返還を請求した。これに対し、原告は、同年二月二日発送の郵便により返還額は四二〇万〇五七〇円になる旨の精算書を野本明に送付した。
3 右精算書を受け取つた野本明は、C・S社に対し原告の提示を伝え、C・S社から原告提示額で妥協する旨の回答を得た。
4 原告代表者木島高明は、昭和五二年二月一四日、野本明の所属するマカイバー・カウフマン・クリステンセン事務所を訪れ、野本明に対し現金で保証金の返還額を支払つた。野本明は、同日、東京銀行有楽町支店の同事務所名義の当座預金口座に四二〇万〇五七〇円を入金し、更に、C・S社に連絡の上、同月一六日、右金額を富士銀行丸の内支店を経て同銀行品川支店のC・S社名義の当座預金口座に送金した。
ところで、野本明は、その証人尋問において、昭和五二年二月一四日原告代表者木島高昭から受領した現金は四二〇万〇五七〇円であり、乙第四号証はその時発行した領収書の控えである旨証言するのに対し、原告代表者木島高昭は、その尋問において、同日野本明に交付した現金は六七一万七三八七円であり、現金交付の際領収書の交付は受けず、領収書は後日送付してもらうことになつていたが、被告の税務調査の時まで領収書が未送付のままになつていることを失念していたと供述している。しかし、原告代表者木島高昭の供述は、極めて不自然で、到底措信できない。すなわち、前叙のとおり六七一万七三八七円のC・S社の要求に対し同月二日発送の精算書で四二〇万〇五七〇円を提示しておきながら、直ぐ後の同月一四日に一転して六七一万七三八七円の要求を容れるというのは不自然であり、しかも、右のような大金を現金で持参するという異常な方法をとつたといいながら、領収書も徴せず、そのうえ領収書が未交付のままになつていることを失念していたということは、およそ考えられないところである。なお、甲第一八号証も、右供述によれば、原告代表者木島高昭が本件各課税処分の異議申立てのため作成したメモというにすぎず、右供述の真実性を裏付けるものではない。これに対し、野本明の証言は、乙第四号証という裏付け証拠も存し、前記認定事実とも矛盾するところがない。
したがつて、原告がC・S社に返還した保証金は四二〇万〇五七〇円であることが明らかというべきである。
しかるに、原告は右返還額を六七一万七三八七円として申告したもので、右申告は所得金額の計算の基礎となるべき事実を故意に仮装し、その仮装したところに基づき行つたものというべく、四二〇万〇五七〇円との差額である表(六)の番号3(保証金返還額過大計上による収益計上もれ)の金額を申告所得金額に加算することは、適法というべきである。
四 以上によれば、本件各課税処分はいずれも適法であることが明らかである。
五 以上の次第で、本件各課税処分の取消しを求める原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 岡光民雄 裁判官 菅野博之)